高齢化が進むとともに認知症になる人が増えています。
家族のうちに認知症の人がいることも珍しくないでしょう。
もし認知症の家族がいるのであれば、遺言書を作成してあらかじめ遺産の行き先を決めておくことをおススメします。
認知症の相続人がいる場合、遺言書がないと相続手続きを進めることが難しくなります。
また遺言書がないと、認知症の相続人の相続分は基本的に法定相続分に縛られることになり、相続税がかかる場合は自由に分けられるときに比べて多額の負担が強いられることがあります。
相続人に認知症の人がいると遺産分割協議ができない
遺言書がない場合、亡くなった人の遺産の分け方は「遺産分割協議」といって、相続人全員の話し合いで決めることになります。
しかし相続人の中に認知症で判断能力がない人がいると、遺産分割協議を行うことができません。
その結果、「亡くなった人の口座からお金がおろせない」「株式や不動産の名義変更ができない」など、相続手続きが進まなくなります。
相続人に認知症の人がいる場合、どうしたらいい?
相続人に認知症の人がいるが遺言書などの事前対策をしなかった場合、相続手続きを進めるためには2つの方法があります。
1.成年後見制度の利用
認知症の相続人は代理人を立てなければ、遺産分割協議を行うことができません。
そこで認知症の相続人の代理人として「成年後見人」を立てることになります。
成年後見人を立てるためには、家庭裁判所に選任の申し立てを行います。
ただし、いちど成年後見人をつけてしまうと、
- 認知症の相続人の財産は、亡くなるまでずっと成年後見人が管理する。
- 成年後見人には専門家が選ばれることが多く、ずっと報酬が発生する。
といった具合にいろいろと縛りが生じます。
しかも成年後見制度を利用して遺産分割協議を行う場合、他の相続人が望む遺産の分け方ができるとは限りません。
成年後見人の仕事は、認知症の人の財産を守ることです。
したがって遺産分割協議においては、原則として認知症の人がもらえる権利がある「法定相続分」以上を確保する必要があります。
▼「法定相続分」とは、民法で決められた遺産の分け方のめやすです。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
2.法定相続分で相続する
遺産を法定相続分で相続する場合、遺産分割協議は必要ありません。
遺産の中に不動産があれば、法定相続人全員の共有となります。
しかし不動産を売却する場合などは共有者全員の合意が必要であり、認知症の人は合意ができないため結局は後見人を立てることが必要になります。
また相続税がかかる場合、遺産分割協議書を必要とする「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった特例を使うことができません。
相続人に認知症の人がいる場合は遺言書を作成するのがおススメ
生前に遺言書を作成しておけば、誰がいくら遺産を受け取るか指定することができます。
遺言書があれば遺産分割協議をする必要がなくなり、相続人に認知症の人がいても成年後見制度を利用することなく相続手続きを進めることができます。
家族に認知症の人がいるときは、ぜひ遺言書の作成を検討しましょう。
相続人に認知症の人がいる場合、事前対策しなければ相続税を多く払わざるをえないことがある
上記のとおり遺言書などの事前対策をしなければ、認知症の相続人には原則として法定相続分を相続させることになります。
この結果、相続税の計算上不利になることがあります。
例えば、下の家族の相続税を見てみましょう。
- 家族構成:夫、妻、子ども2人
- 夫が死亡、遺産1億円
- 妻は認知症、財産が5000万円ある
- 妻には成年後見人をつけて遺産分割協議を行った
夫が亡くなったのを「一次相続」、夫の死から数年後に妻が亡くなったのを「二次相続」とします。
夫婦ともにある程度の財産を持っている場合、一次相続で夫→妻への相続をなるべく少なくした方が、一次相続+二次相続トータルの相続税が少なくなることがあります。
上のケースでは、一次相続で夫→妻への相続はゼロとするのがトータルの相続税が最も少なくなる分け方です。
しかし妻が認知症の場合、妻は法定相続分どおり1/2を相続せざるを得ません。
そこで、
① 一次相続で夫→妻への相続がゼロである場合
② 一次相続で夫→妻への相続が法定相続分どおり1/2である場合
で、一次相続+二次相続の相続税がいくら違うのかを見てみましょう。
一次相続で妻が法定相続分1/2を相続すると、妻が相続しない場合に比べて相続税のトータルが375万円も多くなってしまいます。
一方、生前に相続税を試算してその結果を反映した遺言書を作成しておけば、相続税を抑えることができます。
▼一次相続と二次相続の相続税の計算については、こちらの記事をご覧ください。
まとめ
家族に認知症の人がいるときは、
- 相続手続きをスムーズに進めることができる。
- 相続税を抑える遺産の分け方ができる。
という理由により、遺言書を作成しておくことをおススメします。
いざという時に残された家族が困らないよう、元気なうちに準備をしておきましょう。