「財産を子どもに渡すなら、相続と贈与ではどちらが税金が安いですか?」
相続税の相談を受けていると、こんな質問をいただくことがあります。
できることなら、税金は少なくしたい。
ただ、相続と贈与は、単純に「どちらが得」と決められるものではありません。
誰に、いつ、どのくらいの財産を渡すのか。
そして、今後の生活にどのくらいのお金が必要なのか。
そうしたことを考えたうえで、相続と贈与のどちらが適しているかを考える必要があります。
相続と贈与の大きな違い
まず、相続と贈与の違いを簡単に整理してみましょう。
相続は、亡くなった後に財産を引き継ぐこと
相続では、亡くなった方が持っていた財産を、相続人などが引き継ぎます。
その財産が一定額を超えると、相続税がかかります。
相続税には、
- 基礎控除
- 配偶者の税額軽減
- 小規模宅地等の特例
など、相続ならではの制度があります。
そのため、財産の金額だけを見て「相続税が高そう」と判断することはできません。
贈与は、生きているうちに財産を渡すこと
一方、贈与は、生きているうちに財産を渡すことです。
贈与を受けた人には、原則として贈与税がかかります。
贈与税には、年間110万円の基礎控除があります。
そのため、
「毎年110万円ずつ子どもに贈与すれば、贈与税はかからない」
という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。
ただし、「110万円までなら、いつでも相続対策として有効」と単純に考えるのは危険です。
相続税と贈与税には、それぞれ別のルールがあるからです。
「毎年110万円の贈与」は本当におトク?
贈与税には、暦年課税という仕組みがあります。
年間110万円の基礎控除があるため、一定の場合には110万円までの贈与であれば贈与税がかかりません。
たとえば、毎年100万円ずつ子どもに贈与する、といった方法です。
これを長期間続ければ、財産を少しずつ次の世代へ移していくことができます。
ただし、相続が発生したときには、相続開始前7年以内に行った贈与について、相続税の計算に加算される場合があります。
そのため、
「毎年110万円を贈与すれば、すべて相続税対策になる」
というわけではありません。
また、財産が多く相続税が多額になりそうな場合は、毎年110万円の贈与よりも、贈与税がかかっても110万円を超える贈与したほうがいいケースもあります。
贈与をするなら、贈与のルールだけでなく、相続税との関係まで考える必要があります。
相続ならではの「税金を軽くする制度」もある
では、相続よりも贈与のほうが有利なのでしょうか。
そうとも限りません。
相続には、相続税の負担を軽くするための制度があります。
たとえば、配偶者が相続した財産については、一定の要件を満たせば、相続税の負担が大幅に軽くなる「配偶者の税額軽減」があります。
また、亡くなった方が住んでいた土地などについて、一定の要件を満たすと評価額を大きく減額できる「小規模宅地等の特例」が使えることもあります。
こうした制度が使える場合には、
「生前に贈与するより、相続で引き継いだほうが税金が少なくなる」
というケースもあります。
税金だけで決めてはいけない理由
相続と贈与を考えるとき、もうひとつ大切なのが、財産を渡す人自身の生活です。
たとえば、老後の生活費として3,000万円必要な人が、
「相続税を減らしたいから」
という理由だけで、子どもに多額の財産を贈与してしまったらどうでしょうか。
その後、
「自分の生活費が足りない」
となってしまっては、本末転倒です。
また、財産を渡したことで、家族間のトラブルにつながることもあります。
相続対策は、税金だけを見て考えるものではありません。
「自分がこれから安心して生活できるか」
も、とても大切です。
「誰に渡すか」も重要です
同じ金額の財産を渡す場合でも、誰に渡すかによって考え方が変わります。
たとえば、子どもに贈与する場合と、孫に贈与する場合では、相続税との関係も異なります。
また、将来相続人になる人に財産を渡すのか、そうでない人に渡すのかによっても、税金の計算に影響することがあります。
「とりあえず子どもに贈与しておけばいい」
ではなく、
誰に、何のために財産を渡すのか
を考えることが大切です。
相続と贈与、どちらが得かは「財産の状況」で変わる
ここまで見てきたように、
「相続と贈与、どちらが税金がおトクですか?」
という質問に対して、
「贈与です」
あるいは
「相続です」
と一律に答えることはできません。
たとえば、
- 財産がどのくらいあるのか
- 現金が多いのか、不動産が多いのか
- 誰に財産を渡したいのか
- 相続人は誰なのか
- 配偶者がいるのか
- 自分自身の生活費はいくら必要なのか
- これまでに贈与をしているのか
などによって、結果が変わります。
だからこそ、相続対策を考えるときには、「贈与したほうが得」という情報だけで判断しないことが大切です。
相続対策は、元気なうちに考えておく
相続や贈与について考えるのは、
「まだ元気なのに、相続の話なんて……」
と思うかもしれません。
でも、財産をどうするかを考えるなら、元気なうちのほうが選択肢は多くあります。
贈与をすることもできます。
財産の整理もできます。
家族と話し合うこともできます。
必要であれば、遺言を準備することもできます。
相続が発生してからでは、できることが限られてしまいます。
また、相続以前に認知症などで判断能力が低下した場合も、できることが限られます。
だから、相続対策は「相続が近くなってから」ではなく、まだ元気なうちから、少しずつ考えておきましょう。
相続と贈与、どちらがいいか迷ったら
相続税を減らすことだけを考えて贈与をするのではなく、
「自分の財産を、誰に、どのように引き継いでいきたいのか」
から考えてみてください。
そのうえで、
「贈与したほうがいいのか」
「相続まで待ったほうがいいのか」
「そもそも相続税はどのくらいかかりそうなのか」
を確認していくと、必要な対策が見えてきます。
相続と贈与は、税金だけを比較して決めるものではありません。
財産を持っている本人が、これからも安心して生活できること。
そして、残した財産を、できるだけ希望に沿った形で次の世代につなぐこと。
その両方を考えながら、相続対策をしていきたいものです。

