会計事務所に勤めていたとき、忘れられないお客さまがいます。
ある日「税理士を替えたい」という理由で、相談に来られました。
理由を聞くと、会計事務所にありがちな出来事でした。
それは、前の税理士から納期限の2週間前に『納税額は500万円になります』と言われたこと。
お客さまは急いで資金をかき集め、なんとか納期限に間に合わせたそうです。
ただ、そのときの気持ちはこうでした。
「もっと早く言ってくれないと、準備できない」
「急に言われたら不信感しかない」
毎月きちんと資料を会計事務所に送っていたので、決算の数ヶ月前にはある程度納税額が予測できたはず。
にもかかわらずスルーされた。
そして、その不信感がきっかけで、税理士を変更することを決めたのです。
予測できたはずの多額の納税額の報告がギリギリだった理由
税理士の仕事をしていると、
「納税額はいつわかるの?」と聞かれることがよくあります。
いただいた資料を貯めずに毎月処理していたのであれば、
もっと早く(決算の2-3ヶ月前)おおよその金額をお伝えすることは可能です。
ところが、会計事務所によっては
- 毎月資料を送ってもらっても手を付けず、決算時に1年分をまとめて処理
- 決算作業に着手するのが遅い
- 試算の段取りが後手に回る
- コミュニケーション不足で、情報が揃わない
- そもそも納税額の事前予測など行わない
こうした理由が重なると、「ギリギリまでわからない」状態になってしまいます。
お客さんからすると、
タイミングが遅いだけで生活や資金繰りが大きく揺らぐのが税金です。
だからこそ、このお客さまは税理士を替えるほどの不信感を抱いたのでしょう。
納税額は、できるだけ早くわかったほうがいい
早めに試算ができれば、
- お金の準備ができる
- 支払いの計画が立てられる
- 心の余裕が生まれる
これだけのメリットがあります。
納期限のギリギリまで(しかも毎月資料を渡しているにもかかわらず)納税額がわからなければ、「一体いくら払うんだろう」「今あるお金で大丈夫だろうか」と心配になりますよね。
「納税額がこのくらいになりそう」という報告は、大体の金額でもいいので早めにお伝えすべきでしょう。
私自身が心がけていること
ひとりで税理士をしている今は、
できるだけ早いタイミングでおおよその納税額をお伝えするようにしています。
「急にドンと大きな金額を言われるのが一番つらい」
事前に心の準備ができれば、税金はそこまで怖くありません。
知らされるタイミングが早いだけで、不安はぐっと減ります。
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今回の話は、「税理士を変えた理由」として珍しいものではありません。
会計事務所の中には「客が自分たちの都合に合わせるのが当然」と思っているところが今でも多いです。
「税金そのものより、伝えるタイミングが信頼につながる」
このエピソードは、今の私のスタンスを作る土台となりました。

